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名古屋地方裁判所 昭和46年(ワ)941号 判決 1973年11月21日

原告

市川秋次

ほか一名

被告

佐藤建設工業株式会社

ほか三名

主文

一  被告らは各自、原告市川秋次に対し金一一二万七、六四一円及び内金九二万七、六四一円に対する昭和四六年二月一一日より、内金二〇万円に対する本判決言渡の日の翌日よりそれぞれ完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは各自、原告市川鈴乃に対し金八八万五、九二七円及び右金員に対する昭和四六年二月一一日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを四分しその三を原告らの、その余を被告らの負担とする。

五  この判決の第一項、第二項は仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告ら

1  被告らは各自、原告市川秋次に対し金四三七万一、四二四円、同市川鈴乃に対し金三七六万円および右各金員に対するそれぞれ昭和四六年二月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二請求の原因

一  原告両名は訴外亡市川潔(以下訴外潔という)の父母である。

二  訴外潔は左の交通事故により死亡した。

1  日時 昭和四六年二月一一日午後六時二三分ごろ

2  場所 名古屋市千種区名東本通五丁目一二番地付近路上

3  加害車 被告塚本哲二(以下被告塚本という)運転の原動機付自転車(日進ち―一五二号)及び被告西澤好司(以下被告西澤という)運転の乗用車(足立5に七四三号)

4  態様 訴外潔が右被告塚本運転車両後部席に同乗し、右車両が前記路上を東進中、前記被告西澤車が右折し、両車がそれぞれ前方注視の義務を怠つたため衝突し、訴外潔は道路肩下へ放り出され、同日午後九時三〇分頭蓋底骨折等により死亡したものである。

三  責任原因

1  被告佐藤建設工業株式会社(以下被告会社という)関係、被告西澤運転車は被告西澤保有にかかるものであるが、被告西澤は被告会社の従業員であり、右車両を右会社の従業員運送の業務にこれを使用し、その途上において前記事故を惹起したものであるから民法七一五条又は自賠法三条により後記損害を賠債する義務がある。

2  被告西澤及び被告塚本関係

それぞれ前記過失があるので民法七〇九条により原告らの後記損害を賠償する義務がある。

3  被告福安弘三(以下被告福安という)関係

被告塚本運転車は被告福安の所有にかかるもので、被告塚本に一時貸与中本件事故を惹起したものであるから自賠法三条により原告らの後記損害を賠償する義務がある。

四  損害

1  訴外潔の損害

イ 逸失利益

訴外潔は事故当時一七才であつたところ、満一八才に達した際の月額給与は昭和四六年賃金構造基本統計調査の結果により推定すれば金四万三、四〇〇円であるから、そのうち生活費として月額一万五、七〇〇円を控除し、その平均余命年数の範囲内で就労可能年数を四六年としてホフマン式計算方法により中間利息を控除するとその逸失利益は金七八二万円を下らない。

ロ 訴外潔の慰謝料

金二〇〇万円

ハ 原告らは訴外潔の父母として右損害賠償額の各二分の一をそれぞれ相続した。

2  原告市川秋次(以下原告秋次という)の損害

イ 葬儀費 金四一万一、四二四円

ロ 原告秋次 国有の慰謝料 金二〇〇万円

ハ 原告秋次の負担した弁護士着手金 二〇万円

3  原告市川鈴乃(以下原告鈴乃という)の損害

同原告固有の慰謝料 金二〇〇万円

4  よつて原告秋次は被告らに対し前記相続分と前記2記載の損害金の合計額金七五二万一、四二四円から自賠責保険金三一五万円を受領しているので、これを控除した残額金四三七万二、四一四円、原告鈴乃は被告らに対し前記相続分と前記3記載の損害金の合計額金六九一万円から自賠責保険金三一五万円を受領しているので、これを控除した残額金三七六万円、および右各金員に対する本件事故発生の日からそれぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三請求の原因に対する被告らの答弁ならびに抗弁

一  被告会社、被告西澤の請求の原因に対する答弁

1  請求原因第二項中1ないし3の事実を認め、その余の事実を否認する。特に被告西澤運転車は接触していない。

第三項中、被告西澤運転車が被告西澤保有にかかるものであること、被告西澤が被告会社の従業員であることは認めるがその余の事実は不知。特に本件事故は業務の執行中に生じたものではない。

第四項の事実はすべて争う。特に自賠責保険金は六三一万円支払われている。

2  被告会社、同西澤の主張

(自賠法三条但書の主張)

本件事故に関し、被告西澤は右折のため一時停止し、対向車が通過するのをまち、右折を開始し、さらに二輪車が通過するのを認めて一時停止したところ、その二輪車の後方からきた被告塚本運転車が勝手に被告西澤運転車の前部バンバーに軽く接触して発生したもので、被告西澤は停車中であつたから被告西澤に運転上の過失はなく、被告塚本の前方不注視による一方的過失によつて発生したもので、当時被告西澤運転車両に構造上の欠陥又は機能の障害はなかつたものである。

(過失相殺の抗弁)

仮に被告西澤に過失ありとしても、本件事故の際、訴外潔はヘルメツトを使用していなかつた。さらに訴外潔は運転者のポケツトに手を入れる同乗方法の不適当があつた。又本件事故は被告塚本の無謀運転により発生したものであるから、後部に同乗中の訴外亡潔に対しても相当額の過失相殺を主張する。

二  被告塚本、同福安の請求原因に対する答弁

1  請求原因第二項はすべて認める。

同第三項中、被告塚本運転車両が被告福安の所有にかかるもので、本件事故時に被告塚本に一時貸与中であつたことは認め、その余の点は不知。特に被告塚本の過失は争う。

同第四項は争う。但し原告ら主張の自賠責保険金受領の点のみ認める。

2  被告塚本、同福安の主張

(免責の主張)

本件事故は被告塚本運転車が東進中、西進中の西告西澤運転車が、直進車を優先通行させることなく右折北進したため発生したものであるから、その責任は専ら、被告会社及び被告西澤が負うべきものである。

(好意同乗の主張)

訴外潔は被告塚本と中学生時代の同級生であつて、たまたま本件事故の日に顔を合わせて、訴外潔の発案で被告塚本車に同乗することとなつたので、被告塚本のために同乗したのではないからいわゆる好意同乗の一類型として被告塚本、同福安の責任は否定さるべきである。

(過失相殺の主張)

仮に以上の主張が認められないとしても、好意同乗自体、ヘルメツトをかぶつていなかつた事実、運転車のポケツトに手を入れる同乗方法の不適当及び二人乗りの事実は、はそれぞれ訴外潔の過失として賠償額は大幅に減額されるべきである。

(一部弁済の主張)

被告塚本は原告らに対し、本件事故の損害賠償内金として金六〇万円(昭和四六年二月一三日金一〇万円、同月二三日五〇万円)を支払つた。

第四被告らの主張に対する原告らの答弁

被告らの主張事実はいずれも否認し、その法的見解は争う。(但し、訴外潔がヘルメツトを着用していなかつた事実及び被告塚本の一部弁済の事実中昭和四六年二月二三日五〇万円を受領した事実のみ認める。)

第五証拠関係〔略〕

理由

一  事故の態様

1  事故の客観的状況

請求原因第二項1ないし3(事故の日時、場所、加害車両)の事実は当事者間に争いがないので、事故の態様につきまず判断する。

〔証拠略〕によれば、本件事故現場は東西に走る車道幅員一六メートルの舗装道路(中央分離帯があり、見通しも良好)と、ほぼ南北に走る幅員約六メートルの道路が交差する信号機の設置されていない交差点内であること、被告西澤は普通車(以下被告西澤車という)を運転して右東西道路を西進中、右交差点を右折し、北進しようとしたものであること、他方被告塚本は自動二輪車(排気量一二五CC……以下被告塚本車という)に訴外潔を同乗させて、右東西道路の車道側端より約二・九メートル付近を東進中に本件交差点にさしかかつたものであること、両車は北側道路の東側端と平行に西へ一・六メートル寄つた線の延長線(交差点内に延長)と東西道路の北側車道側端と平行に南へ二・四メートル寄つた線との交わる地点付近で、被告西澤車の右前照灯、前部バンバー右下部付近と、被告塚本車の右前方向指示器外側、バンバー右側、右ステツプ先端、被告塚本の右足付近が衝突したものであることがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。さらに前掲各証拠によれば、右衝突の際被告西澤車はスピードが出ていなかつたためほぼ右衝突地点付近に停止したが、被告塚本車は時速四〇キロメートルないし五〇キロメートルのスピードが出ていたため約五・六メートルのスリツプ痕を残して衝突後、さらに左前方約一三・六メートルすすんだ地点で転倒し、左前方九・二メートル付近の歩道上に訴外潔が投げ出されて転倒し頭蓋底骨折等により間もなく死亡したことの各事実が認められる。衝突地点において被告西澤車が停止中であつたと供述する〔証拠略〕は前記甲第六証中の被告塚本の供述内容(約四〇メートル位手前で中央分離帯付近において右折準備中の被告西澤車を発見、注意しながら進行したが、被告西澤車がすこしずつ右折してくるため自分を先に通過させてくれるものと思つて進んだところ、途中からスウツと出たため衝突したとの供述)に照らしかつ被告西澤の前記供述も被告西澤車の右折中、一台の二輪車が前方通過するのがみえて急ブレーキを踏んだところクラツチの踏みが浅かつたためエンストをおこし、対向車線中央付近で車道をふさぐかたちで停止してしまつたためあわててエンジンを再始動させブレーキペダルから足をはなしたところ直前に被告塚本車がせまつていたと言うのであるから、確実に停止していたか否かの点につき冷静な状態での記憶があるとも思われないなどの点に照らし〔証拠略〕はいずれも措信しない。その他前記認定に反する証拠はない。

2  被告塚本、同西澤の過失内容

前記1認定の各事実によれば〔証拠略〕、すなわち本件事故現場の中央分離帯付近で右折しようとしたところ、対向直進車が数台あつたため一時停止をし、その後対向直進車はないものと軽信し、右折進行したところ一台の二輪車を発見、急停止しさらにエンストをおこしたためあわてて直進車の確認をしないままエンジン始動をした直後、被告塚本車に衝突したとの内容は(停止していたとの点を除き)ほぼ措信できるものがあり、一方〔証拠略〕にあらわれた、被告塚本の供述内容、すなわち右折中の被告西澤車に気付いていたものの右折進行して自己の車線にすでに入つている被告西澤車に十分な注意を払うこと(すなわちやや異常な被告西澤車の行動に注意しつつ速度をゆるめ左寄りに寄るか、警音器で警告し相手が自分を確認していることを確かめたうえで進行することなど)なく、漫然と直進車を優先させてくれるものと軽信してややスピードをゆるめたのみでそのまま進行したとの供述も措信し得るものがあり、以上によれば被告西澤の過失(左方確認不十分)及び被告塚本の過失(右折車の動向確認不十分)は明らかであり、本件事故は右両名の過失が競合して生じたものであると言うことができる。(付言すれば、両名の過失割合は、前記道路の状況、過失の態様等総合判断すると被告西澤七割、被告塚本三割と判断するのが相当である。)

二  責任原因

1  被告西澤、同塚本

右両被告に前記認定の過失があつたことは明らかであるから、右両名は民法七〇九条により各自原告らの後記損害を賠償する義務がある。

2  被告会社

〔証拠略〕の結果によれば被告西澤は被告会社に勤務し、本来の住所は東京であるが、本件事故当時名古屋市内に送電線鉄塔建設現場主任として出張中であり、宿舎から現場への往復に自己所有の本件事故車両を毎日運転し、事故当日も現場での資材到着確認を午後六時ごろに終えて、宿台に戻る途中であつたことが認められる右認定に反する証拠はない。

右事実によれば本件事故車両は、被告西澤所有車であるが被告西澤が単身名古屋市に出張中であり、かつその出張は比較的長期とみられるものの、他方では臨時的な作業に従事するものであつたため、専ら本件事故車両は被告会社の業務に必要な往復(通勤、連絡等)に流用されていたもので、本件事故当時も、被告会社のために運行されていたものと推認するのが相当であり、被告会社が右の如き使用を禁じ、あるいは出張社員の通勤等につき代替措置を講じていたとも認められない本件においては、被告会社は自賠法三条により原告らの後記損害を賠償する義務がある。

3  被告福安

被告塚本運転車が被告福安所有車であること、本件事故当時、被告塚本に了解のうえ一時貸与したものであることは当事者間に争いがないので、被告福安は自賠法三条により原告らの後記損害を賠償する義務がある。(なお同法三条但書の主張が採用できないことは前記被告塚本の過失の存在から明らかである。)

三  原告らの損害

1  訴外潔の逸失利益

〔証拠略〕及び記録上明らかな愛知県日進町長作成の戸籍謄本によれば訴外潔は本件事故当時一七才の健康な高校生であつて、原告市川秋次はその父、同市川鈴乃はその母であるところ、原告らは訴外潔を将来大学へ進学させ、原告市川秋次の経営する幼稚園(園児二七〇名位)の手伝いをさせたいとの希望を有していたものであること又その家庭状況から、右希望に反し特に大学進学が困難であるとの事情もうかがえないことが認められ右認定に反する証拠はない。右認定事実によれば本件事故がなければ訴外潔はほぼ四年制大学を卒業し、すくなくとも昭和四六年度における大学卒業者の初任給程度の収入をその平均余命の範囲内において、就労可能な年限まで得られたであろうことが推認でき、右推認を覆す特段の事情はうかがえない。本件事故発生の昭和四六年における統計(労働者労働統計調査部作成賃金構造基本統計調査、及び厚生省作成の同年簡易生命表参照)によれば同年当時の大学卒初任給は賞与を含め年額七七万六、三〇〇円で、一七才男子の平均余命は五四・八五年であるから、大学卒業時の二三才から六三才までの四六年間は、就労可能であると考えるのが相当であり、その生活費は多くとも年収の半額と推認されるので、以上の事実を前提にホフマン式計算方法により一七才当時逸失利益の現価を算出すると金七一四万一、九六〇円となる。

計算式 77万6300×0.5×18.4(17才から63才までの46年間のホフマン係数―23才から17才までの6年間のホフマン係数)714万1960

2  訴外潔の慰謝料

前記訴外潔の年令、家庭状況等諸般の事情(但し後記過失相殺の点を除く)を総合すると訴外潔の本件事故にもとづく精神的損害を慰謝するには金一五〇万円が相当である。

3  原告秋次、同鈴乃は父母として前記1、2の合計損害額の各二分の一を相続により承継したことは、前記身分関係から明らかである。

4  原告秋次の支出した葬儀費

〔証拠略〕によれば、原告秋次は一人息子である訴外潔の葬儀のため金四一万一、四二四円を支出した事実が認められるものの、原告らの生活状況、当裁判所に顕著である通常の葬儀費用等を考察すれば本件事故による相当因果関係にたつ損害としては右のうち金二五万円を認めるのが相当である。

5  原告らの固有慰謝料

〔証拠略〕によれば原告らは前途有為な一人息子を本件事故によつて一瞬にして失ない、事故後は原告鈴乃は家にとじこもりがちの生活を送るようにより、その精神的損害はなにものにもかえがたいものがあると認められるが、その他訴外潔の年令その他諸般の事情を考慮して(但し後記訴外潔の過失の点を除く)右損害を金銭的に見積つた場合、原告らに慰謝料として各金一〇〇万円を認めるのが相当である。

四  訴外潔の過失

本件事故当時、訴外潔はヘルメツトを着用していなかつた事実は当事者間に争いがなく、又〔証拠略〕によれば、本件事故のおきた際、訴外潔は被告塚本の運転する自動二輪車に同乗中寒さのため被告塚本の厚手の木綿製上衣のポケツトに両手を入れるかつこうで同乗していた事実が認められ右認定に反する証拠はない。

自動二輪車に乗車するものが転倒した場合、頭部の損傷が多く、そのため損害の拡大防止にヘルメツトが有効であることは道交法七一条の二において一定の範囲の者にヘルメツト着用を義務づけていることからも明らかで、ヘルメツトの未着用が死亡(頭蓋底骨折)との間に因果関係をもつと認められる本件においては、たとえ道交法上着用を義務づけられない場合であつても、自動二輪車の危険性が周知で、ヘルメツト着用が必ずしも大きな負担を伴うものではないことなどを考慮すると当事者間の衡平の観点からヘルメツトを着用していなかつたことは訴外潔の過失として斟酌せざるを得ず、又上衣のポケツトに手を入れる方法による同乗は、寒さのためとはいえ、後ろから運転者を抱きかかえる形で両手を組む方法や、両手を自動二輪車の車体の一部を握る方法にくらべ、固定的な部分に手が触れていないため手がすべりやすく、投げ出されやすい不安定な乗車姿勢と云わざるを得ないので右の点も訴外潔の過失として斟酌するのが相当であり(但し、右過失はいずれも特に前記被告塚本の過失に影響を及ぼしたものとは言えず、また友人間で同乗していたとの事実のみで、被告塚本の過失を訴外潔失の過失と同視することは相当でないので、被告塚本の過失部分は斟酌しない。)、以上を総合して訴外潔の過失割合は全損害の二割と考えるのが相当であるから、前記損害額合計一、〇八九万一、九六〇円から訴外潔の過失割合分二割を減殺すると合計八七一万三、五六八円となる。

なお、被告塚本、同福安に対する関係においていわゆる好意同乗の有無が問題となるが、〔証拠略〕によれば本件事故当日、被告塚本と中学生時代の同級生訴外加藤勝己とは一緒に買物に行こうと待ち合わせをしたところ、たまたま右両名と同じく中学生時件の同級生で時折り被告塚本が自動二輪車に同乗させたことのある訴外潔(運転免許がない)が来合わせたため、右の買物計画を話したところ、訴外潔が「俺も行くわ」と述べたため、右加藤が原付自転車に、被告塚本運転車に訴外潔が同乗し、買物に出たその帰途に、本件事故に遭遇したものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実によれば前記三名は中学生時代の同級生として仲の良い友人であり、たまたま「俺も行くわ」と言つたのが訴外潔であつたとしても、右訴外潔の申込がなければ乗せなかつたであろう事情はうかがえず、要するに友人間の連帯の表現としての同乗であり必ずしも訴外潔のために無償で被告塚本が運転を行なつているといつた場合ではないので、信義務則上その他特に訴外潔の死亡による損害につき斟酌すべき場合であるとは認められず、この点についての被告福安、同塚本の主張は採用できない。

五  損害の填補

原告らが自賠責保険金より六三〇万円を受領したこと(六三一万円を受領したとの被告会社、同西澤の主張はこれを証するに足る証拠がない)、及び被告塚本より損害賠償の内入金として五〇万円を受領したことはそれぞれ原告の自認するところであり、又被告塚本法定代理人塚本勝の尋問の結果によれば葬儀の当日、塚本勝が葬儀費用の一部として金一〇万円を弁済した事実が認められ右認定に反する証拠はない。

従つて、前記損害額八七一万三、五六八円から右金額合計六九〇円を控除した残額は一八一万三、五六八円となる。

右金額を前記原告秋次と同鈴乃の支払をうけるべき損害額(相続分を含む)の割合に応じて分割すると原告秋次の受けるべき損害賠償額の残額は金九二万七、六四一円に同鈴乃のそれは金八八万五、九二七円となる。

六  弁護士費用

原告らが本件訴訟追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは記録上明らかであり、本件訴訟の難易、経過、認容額等を総合すると、本件訴訟全体の弁護士費用として金二〇万円を認めるのが相当であり、弁論の全趣旨によれば弁護士費用を原告秋次が負担するとの契約であると認められるので、金額は右原告秋次の蒙つた損害である。

七  結語

よつて原告らの本訴請求のうち、原告秋次は被告らに対し各自金一一二万七、六四一円及び内金九二万七、六四一円については本件事故発生の日である昭和四六年二月一一日より、内金二〇万円(弁護士費用)については本判決言渡の日の翌日より完済に至るまでそれぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、又原告鈴乃は原告らに対し各自金八八万五、九二七円及び右金員に対する前記昭和四六年二月一一日より完済に至るまで同様に年五分の割合の金員の支払いを求める限度で、それぞれ理田があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し訴訟費用については民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 安原浩)

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